焚き火の意味を野営術という観点から解説してきた3回シリーズの最終回は、照明として焚き火をどう扱うか?についてお話ししてみたい。
これまでのシリーズはこちら
⇒生き抜く技としての焚き火①-野外調理に向いた焚き火
⇒生き抜く技としての焚き火②-暖房としての焚き火
だがまず初めに断っておくが、焚き火を明かりとして使うのはとても大変だということだ。
暗さを感じない程の光を安定して継続的に発生させようとしたら、非常な手間とかなりの量の薪を必要とする。ランタンのような煌々とした輝きを焚き火に期待するなら、かなりの大きさの火を、しかも頻繁に燃料をくべながら燃やし方を調節し続ける事となる。
そして今回のテーマと矛盾するようだが、根本的な話として、キャンプにそこまで明かるさが必要なのか?という問題にぶち当たる。
何かものを書いたり、本を読んだりするというのであれば話は別だが、大方の場合、野営地で明かりが欲しくて火を燃やすというのは、実用上の理由からではなく、雰囲気的な問題である。
暗くて何となく怖い、火が無いと寂しい感じがする、、という理由がその大半だというのが経験上の実感だ。
ハッキリと物が見える明るさが欲しいと思うのは、せいぜい夕食の食卓を皆で囲む時くらいで、それ以外は薄暗くても、そこまで困るようなシチュエーションはほぼないと言える。
そうでない場合、例えば調理などの作業の為にしっかり光源が欲しい状況では、人工的な照明を使う事になるだろう。その用途として小さなランタンやヘッドライトを持つことは重要だ。
増してや、森の暗さも含めて自然の中に身を置く楽しみ、星や月の光を求めて野外へ出かけてくるのに、家や街と同じような明るさを作り出すのはナンセンス。
それよりも、少し小さく、柔らかにパチリと燃える焚き火の灯りが作り出す空間の方が、よほど素敵で良い時間を過ごせると思うのだが。
そういう実態を理解した上で、焚き火を照明として使うにはどう燃やすか?ということになる。
火から光を得る為のメカニズムとして、
1、光は炎から得られる
2、反射で光量を稼ぐ
というものが基本となる。
1、については、焚き火の光の量は炎の大きさに比例する。なので、明るさを求めるのであれば、炎を大きくする燃やし方をしなければならない。
逆の話をすれば、薪が燃えて燠火になった焚き火では、その熱量こそ高いものの、明るくないということが経験者ならすぐ理解できると思う。この状態では炎が出ていないので、調理には向くが照明としては不向きな焚き火ということになる。
では炎が大きくなる燃やし方はどういった方法があるかという話だが、一番なのは太めの薪を焚き火の中で立ててやることだ。火は燃えているその上の方に延焼しやすい性質があるので、薪を立てることでその表面に下からの火が当たり、全体的に燃えやすくなる。
一例をあげるなら、普通に焚き火を燃やしてしっかり燠を作った後、その中心に薪を立てることで、火力が強くなる。火起こしの際によく行う、”ティピー型”と呼ばれる薪の組み方がベーシックな形だ。
もちろん、細かく割った薪を沢山くべても炎は強くなる。しかしその方法だとすぐに薪が燃え尽きてしまい、かなり頻繁に薪をくべ続けなくては明るさが維持できない。それに比べて太めの薪を立てる上記の方法であれば、適度な明るさが得られつつ、手を入れてやる煩雑さがだいぶ少なくて済む。
この、手間をかけずに火を維持させるというポイントが、焚き火では(照明としての火に限らず)とても重要で、放置しておけることで生まれる時間が、他の作業に費やす時間や、火の傍らでくつろぐ余裕を生み出してくれる。
特にソロキャンプでは、一人で全ての物事を賄う必要がある為、焚き火の面倒だけを側でずっと見続ける訳にはいかないのである。
実際の使用状況として、私がソロ野営に出掛ける際には、明かりとして使用するのは焚き火の光とヘッドランプ、そしてサブ照明として空き缶ランタンのみだ。
一人で焚き火を楽しむ時間には上記の薪の燃やし方で十分、明るいし、何かの作業をする際にはヘッドランプと焚き火で賄える。
食事や寝る際に、やや手元の灯りが(しかもLEDヘッドランプのように、白い光で雰囲気を壊さずに)欲しいときには、空き缶ランタンを補助にすることで十分に役立つ。
とは言え、複数人や初心者がいるキャンプの場合には、焚き火とヘッドランプだけというのもやや不便ではある。
そうした場合は、メインの照明となる中型のランタンを一つ、持参しておけばOKだ。それも出来れば暖色系の光を出すもの(最近ではLEDでもこうした光色のものがあるし、ガソリンランタンなどは暖色)が、炎の灯りとマッチしてお勧めである。
よく、大光量のLEDやガソリンランタンを3つも4つも狭いテントサイトに設置しているキャンパーを見かけるが、道具は増えるし燃料や着火までの準備が手間で、あまりメリットは無い。それよりも照明がきつすぎてまぶしかったり、虫が寄ってきてうっとおしい 、また物陰とのコントラストが強くなりすぎて、逆に暗がりが良く見えないなど、デメリットが多いのである。
それよりも食事時などは焚き火の明かりとランタン、そしてテーブルにはろうそくを使った照明があれば、明るさと雰囲気の両立が可能になる。
また空き缶ランタンでなくとも、ガラス瓶やグラスにろうそくを立ててやれば、見た目と風防けのダブルで役にも立つ。
その際、注意したいのはメインの照明であるランタンを、テーブルから少し離してタープの支柱などに下げておくことだ。こうすることでランタンに向かって飛んでくる虫が食事に落ちることを防げるし、強いコントラストで物陰の部分が見えにくくなるのを防ぐことが出来る。
これまでシリーズで書いてきた、野営の為の焚き火術だが、その目的に合わせた燃やし方は沢山のバリエーションがある。
興味がある方は当HPで無料配布している、スマートキャンプラボ焚き火マニュアルも併せてご覧頂きたい。
無料レポート:スマートキャンプラボ焚き火マニュアル
最後になるが、火は野外で生きる為の、最も重要なインフラだ。
あなたが野外で一人生存しようとする時、この知識と技術はかけがえのない武器となる。
衣食住、それら全てに関わる焚き火、これを活用するには、まず確実に火を起こせること、そして2番目に、出来るだけ早く起こすことがとても重要になる。
そしてそこでは、凝った道具や見た目だけのテクニックが入り込む余地はないことを断言しておく。