これまで、このコラムであまりナイフについて語ることはしてこなかった。
それはなぜかと言えば、、、
現在の日本のキャンプ環境では、ナイフがあまり必要ないからだ。
あなたも、キャンプにナイフを持っていったは良いが、気づけば一度も使わずじまいで帰ってきた、、という経験はないだろうか?
時折、アウトドアで最も重要な道具は?あるいは、一つだけ無人島に装備を持っていくなら、何を選ぶ?なんて質問を耳にする。
すると決まって、アウトドア経験のある人からは、”ナイフでしょ!”という言葉が出てくる。
しかし、これまでのキャンプの中で、本当にナイフを必要としたことがどれくらいあるか?と質問したら、彼らの殆どは、恐らくウ~ンと考え込んでしまうだろう。
なぜ、野外生活のツールの代表格のナイフが、実際にはこれほど使われていないのだろうか?
野営中、ナイフを含めた刃物が必要な作業の種類と割合は、私の体験的には以下のような感じになる。
1位・・・調理関連 4割
2位・・・焚き火関係 3割
3位・・・設営関係 2割
4位・・・その他 1割
であるのにも関わらず、刃物がどうしてあまり使われないのか?と、具体的に考えてみれば、、、
・料理にはキッチンナイフや包丁など、専用の刃物を持参しているケースが殆ど。
また、多くの食材は切り身で売られていたり、指で開封できるパッケージに入っている。
・薪はキャンプ場の売店で、既に割られたものを購入できる。
火熾しは着火剤の上にこれらを並べれば、後は勝手に燃え上がってくれる。
・テントやタープも、ガイライン(張り綱)やペグが付属しており、自作の必要がない。
つまり、食材や木、ロープなどを切断したり加工したりする必要性が、普通のファミリーキャンプ的な野営にはほぼ、皆無なのである。
現在の日本のキャンプシーンでは、金さえ出せば便利な野営道具を買うことが出来るので、道具を作るという必要性がない。
そして、それら数多くの道具を運搬するにも、車で野営地までダイレクトに運び込める。
また、安全という名目の下、過剰管理されたキャンプ場は必要以上に整備されすぎて、焚き火の薪や小枝すらも拾えなかったりする。
そして、ユーザー自身も、キャンプするにはアウトドアメーカーが販売している多数の道具が無ければ、野営は出来ないものだと思考停止に陥っている。
知恵と工夫を凝らせば、それらの多くは解決出来るのにかかわず、だ。
道具本位のスタイルを誘導する、商業主義のアウトドアメーカーとメディア。
自己責任と自由という、自然の中での基本を忘れたキャンプ場。
考え、工夫することを忘れ、道具を買えば全て解決という方向に走りがちなユーザー。
物量と金という、安易な解決策を使ってキャンプに出かけても、やがては野営の楽しさを見失うだろう。
敢えて不便な環境、何も無い場所で創意工夫をして、生活を作り上げる楽しみに気づかないままに、だ。
今回のテーマはナイフの話だが、ここにも今の日本のアウトドアの一面が見えてくる。
では話を戻して、ナイフがあれば上記のような問題を、どう解決出来るのだろうか?
・森で見つけた枯れ木や小枝を拾い集め、割ったり切りそろえたりして、焚き火を熾す。
・釣った魚を捌き、木の枝を削って串にして、焚き火で焼いて食べる。
・切断した樹木を柱にしてタープのポールとする。
・三脚を作って鍋を吊るしたりシェルターの骨組みとする。
・強風で煽られるテントが飛ばされないよう、木を削ってペグを作り、持ってきたロープを切って追加の張り綱とする。
ちょっと例を思い浮かべるだけでも、こうしたケースがいくらでも出てくる。
また、こうしてナイフを使い、道具を作ることには、それ自体の楽しみ以外にも、多くのメリットがあることも余り知られていない。
例えば、せいぜい年に数回しかキャンプしないならば、それらのために何万円もする道具を買う費用を節約できる。
そして、それらの道具を、狭いマンションの押し入れに詰め込んで、貴重なスペースを喰って奥さんに怒られたりすることもない。
さらに言えば、キャンプ前日の深夜帰宅後や翌早朝、沢山の装備を準備して車に積込む手間がいらず、またキャンプ後の日曜夕刻、渋滞して疲れ果てて帰宅した後の後片付けにゲンナリせずに済む。
野外での刃物の真の存在意義、それは”道具を作り出す為の道具”だということだ。
そして、ナイフを使いこなすには、3つの要素が必要になる。
一つは、創意工夫を行う意識。
何でも既製品に頼ろとするのではなく、また現場で自作し、キャンプを過ごしてやろうという前向きな気持だ。
2番目は、作ろうとする道具の機能、形、作成の手順といったような、知恵と知識になる。
これは昔のキャンプの資料、世界中のブッシュクラフトマニアの野営の様子、サバイバルのマニュアルなどをインターネットや本で勉強することで、こんなやり方があるんだなと、楽しく勉強できる。
そして最後は、規制のない、自由な活動を許してくれる野営地だ。
自己の良識と自己責任の下、自由な野営をOKしているキャンプ場も、僅かだが存在しているし、川岸などキャンプが禁止されていない公共の土地もある。
環境を汚したり壊したりせず、痕跡を残さない野営のスタイル。
そうした技能、マインドを備えたキャンパーでいること。
それが、ナイフが必要となる本来の野営が自由に行える、規制の少ないフィールドがやがて増えていく為の、土壌となると信じている。
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