キャンプが趣味であれば、大なり小なり、キャンプ用品が災害時に役立つとお考えの方も多いだろう。
最も多いのは、テントや寝袋を防災グッズとして活用しようとしているパターンだし、またキャンプはやったことが無いけれど、万が一に備えて購入しようと検討されているケースもよく耳にする。
しかし、テントが災害時の避難場所として本当に役に立つか?と問われれば、私は否定的だ。
え??野外で雨風を防ぐことができて、軽くてどこにでも建てられる。
これほど便利なアイテムなのに、何故役に立たないの?と思われたとしても無理はない。
それは何故かというと、キャンプ用テントを現実的に防災アイテムとして使うには幾つか条件があり、ある限られたシチュエーションでないと使えないからなのだ。
【 災害発生直後は素早い避難が肝心 】
現在、予想されている首都直下型地震や南海トラフ地震などの大規模災害では、かなりの期間、自衛隊などの公助による救援が見込めない可能性が高いとされている。
この場合、運良く建物の倒壊や津波から生き残れた後は、いつになるかわからない救援の手が差し伸べられるまでの期間を自力でサバイブする能力が必要になる。
つまり、頼れるのは自分の能力と持てるだけの装備ということだ。
運が良ければ家族や近隣住民の助け合いも得られるだろうが、災害発生直後の混乱した状況では、他力本願ではリスクが高すぎる。
基本的には自分自身で何とかすることを普段から考えて準備するのが、危機管理の常道だ。
【 災害直後に優先されるのは生存性>快適性 】
こうした状況で実際にテントを使えるチャンスは、あまりないと考えた方が良い。特に大規模災害の発生直後の段階では実際、テントどころではないからだ。
何故なら、災害直後は同時多発火災や第2波、3波の余震、津波などによる自宅の損壊が考えられるため、迅速な避難が基本フローとなっている。
となると、持てる荷物は最小限に限られ、また災害も警戒しながらの不安定な避難生活になる為、その生活レベルはぎりぎりで生命を繋ぐことにフォーカスせざるを得ない。
そうなると、ある程度の快適性が得られるテントより、もっと直接的に命に係わるアイテムを持たなくてはならないという結論に至ることになる。
この時、リュック一つに収まる防災用品の中で優先順位が高くなるのは、まず命を繋ぐために最重要となる水分や低体温を凌ぐための防寒グッズ、少々の食料や応急医薬品等だ。
だが、よく一人1日で必要な水分量は2Lと言われてもいる。
だとすれば3日分の水だけで6㎏だ。ここに他の装備が加われば、総重量はあっという間に10㎏、、15㎏とかさんでしまう。
すると、そこにテントを入れる余裕などとても無くなってしまうのだ。
これは実際に自分が必要と思う防災用品を、リュックに詰めて避難場所まで歩いてみたら理解できる筈だ。
普段からテント泊登山をしている、あるいはトレーニングや肉体労働で体を鍛えているという方以外は、その荷物の重さに愕然とするだろう。
実際問題、平均的な体力の健康な成人男性でも、20㎏以上の荷物を背負ったら、避難行動はかなり厳しくなる。
建物が倒壊してがれきが転がる街を、場合によっては雨が降っている中、照明が全く失われた夜間に、重い荷物を背負って歩くことをイメージして欲しい。
しかも予定していた避難所が潰れたり、燃えたりしているかもしれず、またそこまでの道も、普段なら何ともない道のりが、途中の川にかかる橋が落ちたり、路地が倒れた建物でふさがれていたり、場合によっては火災が起きていたりと、予定のルートを大迂回しなければならない可能性だってある。
ということで、この段階の防災用品としては、テントは非現実的なのだ。
命を繋ぐ技・技術・思考を養う
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もし、それでも可能性があるとしたら、登山用の一人用超軽量テントを、数日経って状況が落ち着いてから家に取りに帰れる場合くらいだろうか。
むしろ、この段階ではテントよりも軽量で汎用性のある個人用シェルタータープのほうが現実的なので、私は防災グッズにはシェルタータープを準備している。
【テントが使えるのは長期避難生活が始まってから】
また、ファミリーキャンプ用の大型テントを防災用として使うのもかなり条件を選ぶ。
なぜならば、重量的に避難場所への運搬が困難(特に女性)だし、避難者で溢れかえっている避難所に、大型テントを建てられるスペースを確保することも難しい可能性が高い為だ。
加えて、仮に設営できたとしても、自分達だけが快適な生活を送っているとしたら、他の避難者からの攻撃の的になりかねず、最悪、火を点けられたり中のモノを盗まれたりしかねない。
ということで、防災用品としてのテントの有効性はかなり厳しいのだが、使えるとしたらどのような条件かと言えば、以下のようになる。
・1~2人用のテントを防災用品に加えても尚、迅速な避難行動が取れる体力がある
・自宅が倒壊などしておらず、テントを自力で運び出せて、自分で設営もできる場合
・避難所などに、安全にテントが張れる場所が確保できた場合。
尚、ファミリータイプのテントを選ぶならば、5人用以上などの大型のモノよりも、せいぜい3~4人程度までのタイプ、そしてシンプルな1ルームタイプをお勧めする。
その理由としては
・何らかの事情で設置場所を変更・移動する際にも撤収や再設営が簡単。
・長期の避難生活では別張りのタープなどと組み合わせる方が利便性・快適性に優れており、風向きなどを考慮したテントサイトのレイアウトの自由度が高い。
・多人数の場合、一つのテント内に皆で眠るより、親子、男女などで別れることが出来た方が、各個人のプライバシーや生活リズムを保ちやすく、ストレス軽減につながる。
・(ブランド・モノにもよるが)大型テント×1よりも中型テント複数の方が安価な場合もあり、防災の為だけに購入するならば、家計的にも手が出しやすい。
無論、大型テントにも居住快適性などのメリットは多々あるが、こうした災害時の現実問題を考えると、小型、中型のテントの方が総合的に好ましいだろう。
そして重要なポイントだが、テントは自立式のドーム型を選ぶことと、製品説明にある収容人数よりも1~2人プラスの人数のモノを選ぶことだ。
これは、近所の駐車場など地面がコンクリートのような場所に設営せざるを得なくなった際、ティピータイプなどのペグをしっかり打って固定しないと自立しないタイプのテントでは、建てることが出来ないからだ。
また、テントの収容人数は、人が横になれるぎりぎりの寸法で計算されていることが殆どなので、その中に荷物を置き、毎日の生活を送っていると、狭くてかなりの不便とストレスが生じることになる。
自宅が被害に遭わず、在宅避難が出来ればそれに越したことはない。
しかし、最悪の想定を行うのはリスクマネージメントの鉄則。あなたの家が必ず無事だと、誰が保証してくれるだろうか。
こうした知識が無駄になることを祈りつつ、いざという時には少しでも役に立ってもらえたら嬉しく思う。
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