大人向けキャンプ・焚き火・アウトドア体験創造集団「週末冒険会」
コラム

実用的な刃物の研ぎ方

 

野営の基本アイテムであるナイフや斧といった刃物のメンテナンス。
切れ味が落ちた状態で放置しておいて、次にキャンプへ出かけた際に、“このナイフ切れないな~”とぼやいた経験がある方もいるかと思う。

けれど、刃物を研ぐなんて何となく難しそうで、やったことが無いという声が多いのも事実だ。

それに加え、ただでさえ億劫になりがちなキャンプ後の後片付けでは、テントや寝袋を干したりはしていても、刃物類までは手が回らないというのが、大方の実情だろうと思う。

また実際のところ、上手に刃物を研ぐにはある程度の経験・慣れが必要であり、また砥石というものの存在は知っていても、その種類や特徴、正しい使い方はあまり認識されていないように感じることが多い。

しかし、切れない刃物は役に立たないどころか、時には無理な力をかけることで危険が増す上、スムーズな野営作業の妨げとなって、時間と労力を無駄にすることに繋がる。

ということで、きちんと手入れを行えて、習得に(比較的)時間がかからず、効率の良い方法をお伝えしたいと思う。

 

【刃を研ぐ難しさの理由】

まず結論から言ってしまうと、刃物をきっちり、切れ味良く研ぐための唯一最大の秘訣は

“刃物と砥石の角度を一定に保つこと“

これに尽きる。

刃研ぎの難しさはこの角度が安定して保てないことが殆どの原因だが、何故そうなってしまうかというと、砥石と刃物の往復運動の際に、角度のぶれが生じるからだ。

するとどうなるかというと、手前では刃の角度が寝て、奥に進むにつれて刃が起きる(またはその逆)というふうになってしまい、刃先の僅かな砥石との接触面が丸まってしまったりするのだ。(これを”しゃくり研ぎ“と業界では言うらしい)

小さく薄いナイフや刃の長い包丁、あるいは重量のある斧など、刃物の形状とその重さは様々。
すると、それらを保持する手や腕にかかる重さと構え方も刃物によって変わってくる。
これが、ぶれを誘発する原因だ。

 

【刃物ではなく、砥石を動かす】

普通、刃研ぎと言えば長方形の厚みのある砥石をテーブルなどに置いて、刃はその上を滑らせる運動をイメージする方が殆どだろう。
だが、上記のような理由から、上手に安定した角度をキープして刃を前後させるにはなかなかの練習が必要だ。

その解決策が逆の発想の、刃物を固定し小型の砥石を動かして研ぐというやり方だ。

この方法、私が高校生の時に通っていたアウトドアショップの親父さんに教えられたものだが、長年行っているうちに、通常の砥石を据えて刃を動かすやり方に比べて、多くのメリットがあることが体験として解ってきた。

・慣れるのに時間が(比較的)短くて済む
・刃物の形状・重さを選ばない
・携行性が良いので、フィールドに持参して、きちんとした研ぎが行える。

この研ぎ方に使う砥石は洋砥石などとも呼ばれる、ホーニングストーンというもので、その中でも小型のものを長年愛用している。

使い方としてはナイフなどをしっかり固定した状態で片手で押さえ、もう一方の手にホーニングストーンを親指と人差し指、中指の3本で握って、刃先に軽く押し当て(強く押し当てるとぶれやすくなるのでNG)、ゆっくりとやや回転させるように研いでゆくというものだ。
(刃物の寝かせ具合は、石や木などを枕にして微調整)

この有利な点は、刃物の種類に限らず、握った石を動かす動作が常に同じで済むということだ。
刃が石に当たる角度は、刃物の寝かせ具合を調整してしっかり固定することで、最適な角度を安定してキープできる。

この方法ならば砥石を握る腕はどんな刃物でも同じ軌跡を描く為、砥石を据えて刃物を動かす方法に比べ、ぶれが生じにくく習得が容易い。

【研ぎ具合は”かえり”で確認】

この作業を刃物全体、表裏両面に施してゆくのだが、刃渡りが長い場合は砥石を当てる箇所を幾つかに分けて、同じ回数だけ作業を繰り返してゆく。>

どのくらいの回数を繰り返えせば良いかは、個々の刃物の切れ味の鈍り方にもより、また砥石の目の粗さ(番手)にもよって変わってくるので一概には言えないのだが、良く研げてきているかどうかを判断する目安がある。

それは、かえり(かえし)と呼ばれる、刃先の金属の微細な“まくれ”が発生しているかどうかを、指先でなぞって確認するという方法だ。

砥石を当てた側とは反対の刃の面を、刃の峰側から刃先に向かって指を滑らせ、バリのようなざらざらした感触が得られれば、きちんと研げてきている証拠だ。

逆にこれが感じられない場合、

1,研ぎの回数が足りない
2,ぶれが生じている
3,砥石の角度を寝かせ過ぎている

のいずれか、または複合していることになる。

2,のぶれを起こさない方法としては、肘から手先までを棒状にイメージして固定し、肘の動きで砥石を動かすようにするのがコツになる。

3,については、刃物にはそれぞれ適切な刃の角度が生産時に付けられているので、刃先のシルバーに光る部分にだけ砥石が当たるよう、刃物の寝かせ具合を再調整してやることだ。

特に、刃先の1㎜あるかないか程度の接触面(これを小刃や糸刃と呼ぶ)を持つ刃物は、慎重に角度を調整してやる必要がある。

上手く砥石が刃先だけに当たっているかどうかよくわからない、、という方は、油性マジックで刃先+αのあたりを塗りつぶして研いでみると良い。
そうすることで、当たった部分のインクが削れて刃先が見えるので、角度調整の目安になる。

(刃先を青の油性マジックで塗り、研いだ状態。小刃の部分だけ色が落ちている)

尚、このホーニングストーンの特徴として、専用のオイルを馴染ませて使うという点と、和砥石に比べて圧倒的に硬く、相当使い込まない限り平面が窪んだりしないという事が挙げられる。

特に平面の持ちが良いということは、当てた刃との角度が変化しないことを意味するので、鋭く研ぎ上げるのに有利だ。
(和砥石はこれに比べ柔らかく凹みが生じやすい。また削られた砥石の粒子が水と交じり合い研磨剤の役目を果たす)

 

【ホーニングとタッチアップ】

今回ご紹介している砥石以外で、野営の最中に応急的に切れ味を復活させる道具が、“タッチアップシャープナー”という道具である。

キャンプ用品店の刃物コーナーやホームセンターなどで販売されており、小型で持ち運び易いデザインのものも多く、また簡単に使用できるのでつい、常用してしまいがちだ。

しかし、タッチアップシャープナーでの刃研ぎは切れ味の持続性が悪かったり、刃先を傷めすぎる可能性があることや、そもそもの研ぎのメカニズムが砥石とは異なるなどの弱点がある。

なので、大切な刃物にはきちんとした切れ味を復活させることが出来る砥石でのメンテナンスが必要となる。

今回紹介している小型のホーニングストーンならば、タッチアップシャープナーと変わらない携行性があり、かつきちんとした研石として研ぐことが可能だ。

こいつを一つ、ポーチに入れておき、夜に焚き火の傍らで酒でも飲みながら研いでやれば、また翌日の使用が快適なことはもちろん、帰宅してからのメンテナンスも不要となる。

 

尚、ナイフの研ぎ方には様々な流儀があり、必ずしも今回ご紹介した手法が絶対という訳ではないという点をご理解頂きたい。

あらゆるメソッドがそうであるように、様々なパターンの中から自分に合ったやり方を見つけ、あるいは組み合わせて、自らのベストを見出すことが一番実用的だ。

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