大人向けキャンプ・焚き火・アウトドア体験創造集団「週末冒険会」
コラム

冬キャンプでの薪ストーブの必要性と選び方

2~3年前からソロキャンプブームと併せて、冬キャンプも流行している。昨年の冬には、NHKが1時間枠の特集で冬キャンプする人たちに密着取材した番組が地上波で流されていた程だ。

寒さ厳しい真冬に何故外で寝る??と、一般的には余り市民権を得られなさそうなこの遊びがそれでも人気になってきたのには、それなりに理由がある。

夏と違って人が少ないフィールドで、美しい雪景色やきれいな冬の星空を眺める。あるいは焚き火と温かいシチューの食事を楽しむことが出来る等、これまでの暖かい季節のオートキャンプでは味わえなかった新しい体験を求めて、中、上級者のキャンパーだけでなくキャンプが初めてという人々までもが、真冬のキャンプ場に繰り出しているのがここ数年の冬キャンプの実情だ。

そしてこの冬キャンプを身近なものにした理由、その一つがテント用の薪ストーブだろう。
また併せて、ベルテントに代表されるような、薪ストーブを設置できる大型のテントが多数、市場に出回るようになり、かなり一般的なものになったこともある。

だが、薪ストーブを使っていれば真冬のキャンプでも暖かく眠ることが出来るかといえば、答えはNOだ。

もし出来るとすれば、それは多くの装備を薪ストーブと併用した上でならば可能、という条件付きでの話となる。

この冬に薪ストーブでのキャンプを夢見ている方にとって少々酷な内容ではあるが、現実はこうだということを知っておいてもらった上で、その対策を建てて冬キャンプに臨んでいただく為の情報として、薪ストーブでの冬キャンプの現実をお伝えしようと思う。

 

 

冬キャンプで薪ストーブを使い、暖かく過ごすために重要なポイント、それはストーブの薪室の広さだ。要は長時間に渡って薪を燃やし続けることが出来る大きさのストーブであるかどうか?が非常に大切になってくる。

それはなぜかというと、人間が暖房で暖まるということ、言い換えれば体温を維持するための理屈に関係していて、この原理を理解しておかないと、冬キャンプがただの苦行になってしまう。

人間が暖かさを感じる熱には種類が2つある。一つ目は対流熱、二つ目が輻射熱と呼ばれるものだ。

対流熱とは簡単に言えば、自分の周囲の空気が暖まっている熱を意味する。エアコンのような暖房器具は暖かい空気を吹き出して部屋を暖めるが、これが対流熱だ。

これに対して輻射熱とは、熱源から発せられる遠赤外線で物体が暖かくなる熱を指す。焚き火に当たっていると熱を感じるのは、赤く燃えている燠からの遠赤外線が自分の体の表面に当たり熱を生むという理屈からだ。

薪ストーブは鉄の躯体で覆われている。そしてその中で燃えている薪が発する遠赤外線は、ストーブの躯体に遮られて人までほぼ届かない。しかし、薪ストーブ自体が高熱を持ち、その周囲の空気を暖めることで、暖房としての機能を果たしている。

しかし、先ほどの話の通り、対流熱は空気自体が暖まることで暖房としての役割をなすので、条件としては閉鎖された空間で使うこと、つまり温度が逃げない室内のような場所でないと意味が無くなってしまう。

言うまでもなくキャンプ環境は野外であり、解放された屋外に設置された、薄い生地のテントの中で薪ストーブは使われることになる。

断熱効果などほぼゼロのテントの中で薪ストーブが生む熱は、燃え続けている間はテント内の空間を暖めてくれるだろう。これが断熱性の高い住宅などであれば、火が多少小さくなり、生み出される熱の量が減ってきたとしても直ぐに室温が下がることはない。

けれど、冷たい外気にすぐ熱を奪われてしまうテントでは、燃え方が弱くなったり、火が消えてしまうと急激に室温も下がってしまうのだ。

 

ここに、キャンプ用薪ストーブではその大きさが重要という理由が隠されている。

実際に冬キャンプで小さな薪ストーブを使用する際に一番問題となるのが、眠っている際の温度の低下だ。

誰かが眠らずに火を燃やし続けてくれているならば問題はない。だが皆が眠りに着いた後も、出来るだけ長く火が燃え続けるよう、なるべく多く薪を投入しようとしても、そもそも薪室の容量が小さければおのずと限界がある。

するとどうなるか?寝入ってから数十分や一時間程度で薪が燃え尽き、その後には急速な冷えが襲ってくる。

やがて寒さで目が覚め、薪を足して再び暖かさを取り戻すための作業に取り掛かることになるのだが、これがまた面倒で厄介なのだ。

暗闇の中、せっかく暖まった寝袋から抜け出し、薪ストーブに薪を突っ込んで火を復活させようと、火吹き棒でフーフーやるのだが、僅かな燠だけしか残っていないために、直ぐに燃え上がらない。

その上、開けた薪ストーブの扉から煙がテント内へ逆流し、目が痛いわ咳込むわ、、挙句の果てにCo中毒になりかけて頭痛までしてくることになる。

これを避けるには、直ぐに引火しやすいようにある程度細かく割った薪を投入して、それらが燠になった後に太い薪をくべるという手順が必要となるので、小割の薪を就寝前にたくさん用意しておく必要が出てくる。

そして何よりも、この作業を1時間毎など頻繁にやらなければならないのだ。もしこれがソロキャンプで、一人でこんなことをやっていたら、安眠などしている暇はない。

こうなることを防ぐには、ある程度の大きさの薪室を持つストーブを使用し、出来るだけ火持ちがする太い薪(出来ればナラやカシ等の広葉樹)を燃やすしかなくなる。

そうすれば、朝までは無理としても、薪を2~3時間毎にくべれば済むので、夜中に3回程度起きれば済む計算だ。複数人で寝ているならば、交代でこの作業を行えるので、かなり就寝時間を長く取れることになる。

そうでなければ、ストーブの火が落ちた状態でも暖かく眠れる寝袋を使うしかない。だが、真冬に暖房無しの気温でキャンプ泊が出来る寝袋は、化繊を使用した大きく嵩張るものか、または小型で暖かいが高価なダウンを使った製品の2つのチョイスになる。(ダウンでなく化繊の寝袋でも、真冬用ともなればそこそこ値は張るが)

となると結局のところ、暖房無しで眠れる装備を揃える(積雪がある中のキャンプならば、私の経験だとー15℃位まで耐えられる寝袋)、あるいは大きめのストーブとそこそこの暖かさ(-5℃まで対応など)の寝袋の組み合わせが選択肢だ。

 

 

それでも起きている間だけテントの中が暖かければOK、という方は小型薪ストーブで良いかもしれない。

だけれど、キャンプに来てテントの中でその時間の殆どを過ごす、という状況はあり得るだろうか?むしろ、何だかんだでテント外で過ごす時間の方が遙かに多いのが現実で、余程の悪天候でない限りテントに閉じ籠るシチュエーションは少ない筈だ。

冬キャンプで薪ストーブを使おうという方は、車で出かけるオートキャンプを前提としているだろう。それならば荷物の積載量についてはある程度余裕があると思われるが、それでも大きめの薪ストーブはかなりスペースを喰う。

本体だけでなく煙突も入れると普通の乗用車のトランクは1/3くらいが埋まってしまうし、煤で汚れたストーブを収納する箱なども含めるとそれ以上になるのだから、その他の荷物はどうする?というところから冬キャンプ計画を考えなければならないかもしれない。

場合によれば自前の車ではなく、積載量の多いワゴン車やSUVを借りることも視野に入れる必要があるし、そこに薪ストーブ自体の価格、それに冬用寝袋の値段も加わると、ちょっとした海外旅行に行ける程度のお金が掛かることも十分承知しておいて欲しい。

因みに週末冒険会で使用しているキャンプ用薪ストーブは、ごく一般的なタマゴ型といわれるものだ。これを大型のベルテントに入れて持続時間の長い広葉樹の薪を燃やすことで、-15℃位までの雪中キャンプを過ごしている。

このように、薪ストーブを冬キャンプで使うには幾つかの条件、またそれに伴った装備が必要となる。

真っ白い森の中で薪ストーブの炎を見つめながら静かに過ごすテントの一夜。とても素敵な夢だが現実はこうしたものであることを知って、その準備をしっかり行って憧れの楽しい、そして暖かい冬キャンプを過ごしてもらえれば嬉しく思う。

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