火熾しを初めてやってみた時、難しかったことは何だったか、あなたは憶えているだろうか?あるいは、今でも焚き火やBBQの際に、火を着けるのに一番、苦労するのはどんな事だろうか?新聞紙などに点火した後、なかなか薪に火が着かず、すぐに燃え尽きたり、炎が大きくならない、、ということはないだろうか?
勿論、固形燃料やバーナーを使って一定時間、薪や炭を炙り続ければ、大した手間もかからずに火は着く。しかしそれでも、火が熾きたと一安心して少し目を離している間に、炎が弱くなって消えかけてしまった、、なんて経験をお持ちの方も少なくはないだろう。
火が上手く着かない。あるいは一旦、燃え出したのにすぐに弱くなり、消えてしまう。それらの原因は、火熾しの理屈をきちんと理解して、順序立てて実行できているかどうか、ということの一点にかかっている。その理屈を学ぶのに有効で、面白い方法の一つが、上の写真の”火打石”だ。
この火打石の存在は、多くの方がご存知だろう。そう、TVの時代劇で、出掛ける旦那を見送る奥さんが、玄関先でカチカチと打ち付ける(切り火を切るという)その手にもっているアレだ。まあ、この儀式は縁起担ぎのもので、別に旦那の背中に着火しているわけではないのだが。
ところで、実際はこの火打石だけでは火を起こすことは出来ない。石英やめのう、チャートなどの鉱物でできた火打石と、それを打つ為の火打金。そして飛んだ火花を僅かな火種として燃やす火口と、さらにその火を移す為の、麻などをほぐした燃焼剤、、といったものが、火花を焚き火に育てるまでに必要だ。
火打石は火打ち金とセットになっている場合も多いが、この火口や燃焼剤は基本は自作だ。実際、野外で消耗品であるこれらを使い切ったら、自分で何とかするしかないのだから、当然といえば当然である。
(火口の火を次に大きくする為の燃焼剤)
ところで、このコラムを読んでもらっている方の中で、実際に火打石で火熾しをした経験のある方はどの位いるだろうか? 多分、殆どいないのではないかと思われる。確かに今時、ワザワザこんな面倒な道具を使うなんて、手間以外の何物でもない。が、、、小さな火種から焚き火を作り上げる過程を勉強するには、この火打石はとても有効な教材なのだ。
火口を一摘み、石のエッジに沿わせるようにして、親指で押さえる。右手に持った打金を鋭く、石の縁に擦り当てるようにして振り下ろす。一瞬、黄金色の火花が走り、火口の端が極小さく、赤くなる。その、今にも消えそうな赤い火に息を吹きかけ、慎重に、しかし素早く次の燃料に移す。燻っている火元へ、強過ぎず、しかし燃え上がるのに十分な空気を送り込む。
(石と指の間に挟まれているのが、チャークロスと呼ばれる火口)
文字にするとさらっとしているが、実際にやってみると、最初はかなり難しい作業だ。最初のステップである火花を飛ばし、火口に小さな火を移す過程までは、ちょっと練習すればそれほど難しくない。しかし、そこからが難所。殆どの場合は、火種がちゃんと大きな火に育つ前に消えるだろう。実はこの失敗の理由が、普段の火熾しをミスる原因にも共通しているのである。
焚き付けの選び方と分量、組み方の問題。空気の送り込み方のマズさ。燃料投入のタイミングとバランス
などなど、その理由は様々なものが絡み合っている。文章にすると幾つもの理由が出てくるが、実際にはこれらが複雑に組み合わさり、上手く燃えるかどうかを左右している。コレばかりは文字で説明するのが不可能で、上手になるには実際に体で覚えるしかない。
焚き火は同じ状態は2度となく、その一瞬一瞬が勝負。毎回、変化する炎の状態を瞬時に見極めてコントロールするには、基本のやり方をきちんと身につけた上で、経験を積むしかないというのが実際のところだ。
また火打石以外にも、ファイアースターターと呼ばれる、火打金を使った火付けの道具も市販されているのは多くの方がご存知だろう。これも同じように、火花を飛ばして火口から焚き付けへと、火熾しの原理を学ぶのには有効な道具だ。火打石はちょっと難しすぎて、、という人はファイアースターターを使用して練習するのも良い方法だろう。
何時でも手際良く火を着けられる、そして永く静かに、しかし消えない焚き火を作り上げる。
そんなアウトドアマンでありたいと思わないか?
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