大人向けキャンプ・焚き火・アウトドア体験創造集団「週末冒険会」
コラム

本当に役に立つものとは?

目を開けているのか、閉じているのか、分からなくなる。

雨の新月の夜、真の暗闇の中で、時間と空間の感覚があいまいになってゆく。

疲れ果て、隙あらば眠りに落ちようとする躰とは裏腹に、緊張と警戒心と恐怖で極度にひり付く神経。

森の暗がりで樹に背中をもたれさせ、風や樹々のしなる音の中に、あるかなきかの異質な、襲撃者の気配を見出そうと意識を向けながらも、残りの感覚を無理に休ませる。

そう、この無限に続くように思える状況に、心と体が参ってしまわないように。

1992年、クリスマス直前の数日間の話だ。

 

この話は私が20歳の時、サバイバルスクールで経験したエピソードになる。

紛争や内乱に巻き込まれた想定で、そこから逃げ延びるという訓練。

冬の森で、テロリスト役の指導教官達が夜な夜な、銃の替わりのスタンガンと催涙スプレーを手に、私達生徒を襲ってくる。

捕まれば殺されこそしないものの、電気ショックとスプレーを浴びせられ、激痛にのたうち回る。中には裸で木に縛り付けられ、水をぶっかけられて放置される奴もいた。

負のエネルギー、恐れや不安、痛みは時として、人の限界を超えさせる。

知らない、習っていない、わからない、、などと言ってはいられない状況に、サバイブする為の潜在能力が花開く。

私がサバイバルの本質を学んだのがここだった。

限られた装備と自分の技術で、自由に野営を行う。
その為の知恵とスキルと思考力を養うには、、
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シンプルイズベストという言葉があるが、これは裏を返せば、凝ったものは役に立たない”とも言える。

サバイバルスクールでの経験から得た教訓は多いが、そのうちの一つがこの、凝ったスキルや道具は役に立たないということだ。

というのも、時間や体力的に余裕があったり、環境が穏やかという条件ならば、便利に使えて役に立つテクニック、あるいはアイテムというものは沢山ある。

だが、切羽詰まった状況で何かを行わなければならない、しかも失敗は許されず、また早くできないと手遅れになる、、というのがサバイバル環境の現実だ。

 

例えば、気温が氷点下に下がるような雪の森の中で1泊する羽目になったとしよう。時間帯は既に夕方で、日が暮れるまでもうあと1時間も無い頃合いだ。

体は冷え切り、このままでは低体温の危険性もある。しかも雲行きが怪しく、この後には風と雪が襲ってくる可能性が高い。

となれば一刻も早く寒さから身を守れるシェルターを作り、焚き火を起こして暖を確保する必要がある。

モタモタしていたら死んでしまう、、そんな時に何より重要なのは、一発で間違いなく火が起こせる着火具だったり、3分以内で立ち上げることのできるシェルターの設営法だ。

木の枝を削ってフェザースティックを作って、ファイアースターターで火を飛ばして、焚き付けをくべて、、などと、確実性に劣り手間もかかる手段を行っている暇はないのである。

疲れ切って出来れば少しでも動きたくない。また現実的にも、なるべく動作を控えて静かにしていないと敵役に見つかるというシチュエーションで悟ったのが、凝ったテクニックや道具は使えねーな、、という真実だった。

実際の話、スクールのカリキュラムの中には火起こしも含まれており、そこではファイアースターターを使用した着火もやらされたが、後になって教官(経歴は元自衛隊のレンジャー訓練助教)に、レンジャーも実際にファイアースターターで火起こしするのか?と尋ねたところ、

“こんな手間のかかるもの、持ってく訳ねーだろ!ライター持ってった方が100倍確実で早く着く”

と一笑されて、ショックだったのを鮮明に覚えている。

 

身に染み込ませたテクニック、そして信頼のおけるシンプルで多用途に使える幾つかの装備、これらを駆使して確実に結果が出せること、そしてより早く。

サバイバル時だけでなく、趣味で行うアウトドアでも、本質はここにある筈だ。

沢山の道具に振り回されたり、ネット上に溢れる情報に溺れそうになっていたら、このエピソードを思い出して欲しい。

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