大人向けキャンプ・焚き火・アウトドア体験創造集団「週末冒険会」
コラム

漫画:サバイバルに見られるスキルは本当か?

世にサバイバル本は数あれど、マンガでのマニュアル本というものはあまり多くは無い。

けれど、漫画スタイルの方が、専門的で詳細だではあるけれど、文章と少しのイラストだけで小難しい(特にアウトドアの経験が少ない初心者にとっては)書籍本よりも、読んでいてワクワクドキドキし、それでいて野外で生きる術を教えてくれるので、はるかに面白く、とっつきやすい。

と、何の話かと言えばコラムのタイトル通りなのだが、30年ぶりくらいに、かの“さいとうたかを”先生の漫画“サバイバル”を読んでみての件ということだ。

さいとう先生といえば、ゴルゴ13で世界的に有名だが、ゴルゴに比べて知名度はイマイチなものの、一部サバイバル好きの間では有名なのが本著だ。(ちなみに同様の大災害サバイバルもので、ブレイクダウン、日本沈没という漫画も出版されている)

あらずじとしては、主人公のサトル少年が仲間と洞窟を探検中に、日本全土が壊滅的な大地震に襲われ、一人ぼっちのサバイバル生活を強いられながらも、家族を探して荒れ果てた山野を彷徨うという冒険ものである。

連載時期が1970年代後半という、現代に比べたらはるかにサバイバル関係の情報の入手が困難な時代であることや、主人公がまだ14歳という年齢などから、本の中に出てくるサバイバルシーンにはややリアリティに欠ける部分もある。

けれど、そうした部分を割り引いても、面白く読めて学びのある本書は、マニュアル本ではないにしろ、その性格が色濃い1冊だ。

漫画でこうしたスキルを見せてくれることの良い点の一つは、ストーリー性があることだ。

それは、物語の主人公が、いつ、どこで、なぜそのサバイバル技術を駆使しているか?が、話の流れの中で読み手に素直に理解できるからだ。

“この場面ではこのスキルを使うのだな”、とか、“こういう状況ではこんな判断も出来るのか”などの例が解り易く、サバイバル上の戦略的判断を、物語の流れに沿って学べるのである。

これが、マニュアル本で知識ばかりを得ると、火の起こし方や動物を捉えるトラップの作り方などは知ることが出来ても、それを使うべき状況、今、それが本当にやるべきことで優先順位の高い作業なのか?という判断力を養うことはできない。

でないと、例えば、貴重な体力を使って山中を歩き回って山菜を集めようとしたり(山菜はカロリーが少なく、積極的に探すのはエネルギー収支の観点から本末転倒)、雨も降っておらず、大した寒さでもないのに、何時間もかけて枝や草を集めてシェルターを作ろうとしてしまうのである。

ということで、物語のメインキャラクターのサトルが、どんな感じのサバイバル技術を本の中で披露しており、それが本当に役立つか?という視点で幾つかのエピソードを取り上げてみた。
(尚、これから読もうという方にはネタバレ注意なので、予めご了承の程)

(出典:Survival world

1,狼煙(のろし)を上げて沖の船に見つけてもらおうとするシーン

遭難時に遠くから発見してもらうための手段として古来からある狼煙だが、本の中では煙を上げるのに失敗し、沖に現れた船に発見してもらえない。

後にサトルは、火を起こすのが遅過ぎたと後悔の弁を口にしているが、これはそもそも狼煙の使い方に対する理解不足が最大の敗因だ。

特に道具の限られたサバイバル状況下で焚き火を起こすには時間がかかるし、加えて大量の煙を瞬時に発生させなければならないので、狼煙を焚くには、ある程度以上の火力と、水分を含んだ生木の枝葉が大量に必要だ。

なので、狼煙を使ってタイミング良く、相手が視界から消え去らないうちに発見してもらうには焚き火の火力を常時、キープしていることが必要になる。

となると、誰かが四六時中、火の面倒を見ている必要がある上、その燃料の確保や補充も行わなければならない。

これでは、生きる為に必要な水や食料などを狩り集める作業に当てる時間が(特に単独でのサバイバル時)無くなってしまう。

ということで、狼煙で救助を求めるのならば、条件として救援が現れる可能性が高いことや、焚き火を焚き続ける時間的、労力的余裕があることが求められる。

(出典:Sustainable Living

2,ソーラースティールによる水集め

野外で飲用となる水を集める方法として有名なソーラースティールだが、これで実際に水を集めるにはいくつかのコツが必要だ。
(ソーラースティールについての詳細はこちらのコラムを参照)

仕組みとしては、地面に大きな穴を掘り、ビニールで覆って内部の温度を上げ、揮発した水蒸気を集めるという方法のため、まず水分が気化できる暖かさが必要になる。

だが実際にはソーラースティールに太陽の日差しが直接当たるような環境で、かつある程度の気温がないと、殆ど水を集めることが出来ない(少なくとも私の経験では)

また、蒸留水の原資となる水を含んだもの(汚れた水や植物、自分の尿など)を内部に十分仕込んでおかないと、これもまた失敗の原因となる。

そういったものが十分にない場合、例外としては、砂浜の波打ち際から数十メートル程度下がった場所など、地面を掘ると底が湿っている場所は成功する可能性が高い。

漫画の中では非常に気温が高いという設定の下、この方法で水を溜めるのに成功しているが、特に植物や汚水を中に入れている描写は見られなかった(見落としていたらご勘弁を)

また、絵の描写が穴を覆うビニールシートの周縁が石で押さえられただけで、隙間が空いており、これではせっかくの水蒸気が逃げてしまっている筈で、実際には土などでしっかり縁を密閉してやることも重要になる。

恐らく、数十年前の本なので、参考とした文献が海外のマニュアル本くらいしかなく、実践している日本人も殆どいなかった時代なので、この辺のディテールにまでは注意が及ばなかったのだろうという気がしている。

 

現代ではYoutubeなどの動画や、ネットから拾える日本語以外の情報も翻訳ソフトで簡単に訳して知識を得られるが、時にはこうした形で野外スキルを学んでみるのも、肩が凝らなくて良いなと、改めて思った次第。

本書の他にも、Dr.Stoneやゴールデンカムイ、マスターキートンなど、探せば結構、参考になるものがあるので、貴方のお好みで読んでみるのはいかがだろうか?

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