大人向けキャンプ・焚き火・アウトドア体験創造集団「週末冒険会」
コラム

熊スプレーの取り扱いと注意点

ここ数年で、キャンプやアウトドアに出掛けたいと思っている人の大きな悩みとなっているのが、熊問題だろう。
実際に週末冒険会へお寄せ頂く問い合わせにも、

”熊は大丈夫ですか?” あるいは ”参加するのに熊対策は必要ですか?”

という質問が1か月に1回程度はある。

元々、冒険会八ヶ岳BASEがある地域は熊が少なく、地元猟友会もその狩猟を自粛しているような地域だ。
また、森で行動中にばったり出会ってしまうケースは別にして、キャンプ地に熊が現れるとしたら、その原因は恐らく食べ物の臭いにつられて、、というものがメインだと思われる。

だとすれば、その有効な防御法は美味しそうな臭いを出さない事であり、そのために就寝時には汚れた食器や残飯、ごみなどの処理を確実に行うようにしている。

その方法、ほんとに使えるの?

この熊問題と対策について、私はこれまで発信は控えてきた(キャンプに参加して頂いているメンバーの方にはお話しているけれど)

何故かと言えば、まず実際に私が熊に襲われた経験が無いこと。
また昨今の熊の生態、特に昔から言われているような、鈴や人の出す物音を聞けば逃げるという臆病な性質が必ずしも当てはまらなくなってきている事等だ。

そして最も大きな理由は、メディアやインターネット上に溢れる熊対策の真偽があまりにも不確かで、どれを信じたら良いか判断しかねることである。

昔はよく、クマに襲われたら死んだふりをしろと言われていたが、近年になって、これは都市伝説的な話で、実際には木の棒でも鉈でも振り回して戦ったほうが、生還確率が高いというような報告も見られるようになった。

この話と同じように、例えば熊と出会ってしまったら目を合わせるなという話もあれば、その目を見つつ、じりじりと下がれという話もあったりする。

つまり、語られている様々な対策が、命に直結する問題であるにも関わらず、その有効性や効果の程の実証件数が少なく再現性に欠けているという問題をはらんでいる。
そんな話を、熊に出会ったことも、ましてや撃退したこともない自分が語ることは無責任だと思っている。

熊スプレーは銃と同じ

けれど、そうした対策の中でも実績があり有効性が高いのが熊スプレーだ。

確かに、強力な催涙成分を噴射して熊を撃退できるとなれば、これを持っていればとりあえず安心、キャンプも山でも何とか大丈夫そう、、と思わせられるのも無理はない。

だが、それだけの威力がある=危険な代物だという認識を持っている人は、果たしてどれだけいるのだろうか?
扱い方を一つ間違えたり、正しい知識や使用法を学ばずに使えば、熊を撃退するどころか、自分の命にさえ危害が及ぶ、極めて取り扱いに注意を要するアイテム。それが熊スプレーだ。

いわば、銃と同じ武器であり、その認識での扱いが必要なのである。

効果が実証されていて実際にその件数も確認されている、けれどその裏側に潜む危険性や正しい使用法はあまりにも語られていない。
そういう点で熊スプレーについてはある程度、発信しておいた方が良いかと考えて、今回このコラムで取り上げることにした。

尚、お前は熊スプレーについてそんなに詳しいのか?と思った方もおられるだろう。
先ほども書いたように、私は実際に熊に遭遇した経験もなければ、スプレーで撃退したこともない。

しかし、サバイバルスクール時代にこの催涙剤(熊スプレーに使用されるのと同じOC成分)を浴びてさんざんのたうち回った経験は何度もある。
またこうしたスプレーを含む低致死性武器の使用法と特徴についても学び、使っていたので、その経験と知識を元にお話させて頂くことにした。

正しく買って、安全に扱うポイント

熊スプレーの成分は高濃度のカプサイシン(OC:オレオレシンカプシカム)と呼ばれる、唐辛子成分だ。

辛いものを食べた際に感じるあのヒリヒリ感、これを非常に高めたものを霧状にして熊の目や鼻などの粘膜に吹き付けることで、痛みや刺激を与えて一時的に行動不能にするというのがその原理になる。

ではカプサイシンが含まれていれば何でもOKなのか?というと、無論そんなことは無く、下記の項目が重要となる。

・飛距離 (10m前後を推奨)

・噴射時間 (最低6秒以上)

・成分濃度 (2%程度を推奨)

問題なのは最近、熊騒動に便乗して、あるいは間違った知識で防犯用の対人催涙スプレーが販売されていることだ。
これらは同じOCを含んでいるものの、上記項目が対熊用としてはどれも低く、とても使えないので、購入を考えている場合は要注意だ。

購入の場合は、できれば米国環境省(EPA)に登録されている製品ならばこの数値をクリアしているので、それらをお勧めする。

そして製品の性能同様に重要なのが、取り扱い方法だ。これを知らないと最悪、命を落としかねないので、十分な習得をお勧めする。

1,風上に向けない
熊スプレーの噴射方法は、そのほとんどが殺虫剤と同じような霧タイプだ。
これは円錐状の広範囲に噴霧できることで、クマが現れて慌てている際でも正確な狙いを付けずとも当てられるというメリットがある。

しかし大きな弱点は、霧状の為に風に弱い点だ。
もし熊が自分の風上から接近してきた際に使用すると、熊に当たらないどころか自分がその成分を浴びてしまう。そうなったら待っているのは悲劇でしかない。

なので、常に風向きを意識しておく必要がある。

2,射程距離を把握しておく
上で書いたように、EPA登録の製品であれば10m前後の射程距離を有してはいる。
だが、この射程距離も伸びれば伸びるほど、薬剤が拡散してその分効果は薄まってくる。

またキャンプ参加者の持参したものを試験してみた際には、表示された到達距離に届かない製品も見られた。
そして、低温環境では噴射の為のガスが気化しにくくなり、結果として圧力が弱くなって飛距離が落ちる場合も考えられる。

ということで、実際に効果の出る距離は表示されている数値よりも劣ると考えていた方が賢明だろう。

3,噴射時間を確かめる
まともな熊スプレーの多くは大概、牛乳瓶くらいの大きさがある。
その容量から察するに、殺虫剤並みに数十秒は噴射できそうに思えるのだが、実際には6~10秒未満しか持たないものが殆どだ。

ということは、射程距離内に入ってきたところを狙いすまして、的確に数秒の2,3連射で当てなくてはならないということになる。
接近してくる熊の恐ろしさに、射程圏外から噴射しまくって、いざ有効範囲内に熊が近寄った際には既に弾切れ、、とならないよう、冷静な使用が求められる。

4,すぐに使えるポジションに装着しておく。
スプレーを購入した方によく見られがちなのが、ザックの奥にしまい込んで携行しているパターンだ。
持っているだけで安心してしまい、いざという時に取り出すのに手間取ってしまっては意味がない。

正しくはホルダーケースに入れて腰のベルトやリュックのショルダーストラップに装着し、瞬時に取り出せる状態にしておくことだ。

また、熊の気配を感じる、あるいは感じそうな場合には、取り出して安全装置をすぐ外せる状態で構えておく、、というようにする必要がある。
アメリカの警察官が、不審車両に近づき窓越しに尋問する際に、片手は腰の銃がすぐに抜けるよう構えているのと同じ要領である。

その他の注意点

他にも注意すべき点はあり、有効期限が近付くにつれガスが徐々に抜けてくるので、飛距離や噴射時間が落ちてくることがある。
また製品によっては噴射口がむき出しになっていて、泥やホコリがつまり、あらぬ方向に噴射してしまう可能性があるなど、保管管理にも気を配るべき点がある。

必ず練習してからフィールドへ

これらから言えることは、必ず事前に使用法やその性能を試してから現場に持参することの重要性だ。

熊騒動や円安の影響もあるのか、ここ1~2年で価格が高騰しており、試すなんてもったいないと思うのは理解できる。
しかし、練習無しで使用した際のリスクを考えると、それはあまりに無謀というもの。命を守るためのコストとして考えれば安いものだ。

尚、きちんとしたメーカーの製品には、練習用にイナート(inert)というカプサイシン成分が抜かれた(それ以外は実物と全く同じ)モデルが販売されており、こちらの方がだいぶ安価だ。なので、購入の際には併せて入手するのを強くお勧めする。

 

最後に言えるのは、熊スプレーを使う羽目にならないことが最善ということ。

その為に、食べ物やごみはきちんと密閉し、放置したりその辺に捨てたりしないことや、キャンプ地周辺の熊の出没状況を確認して、あまりに頻繁なようならば目的地を変更するなど、まずは出会わない対策を行うことが大前提。

その上で、最終手段の保険としてスプレーが存在するのであって、これを使用せざるを得ない状況は、最悪の1歩手前だということを強く認識していてほしい。

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