アウトドアの中の一つの究極の形態、それがサバイバルだ。
孤立無縁。誰も助けてくれる者はなく、持てる道具は僅かで、厳しい状況下を生き抜く。
頼れるものは己の知識と技術、体力と精神力、重ねてきた経験。そして時の運。
そこでは屁理屈なし、強いものだけが生存できるという、明快な自然の法則がある。
人がサバイバルという言葉に興味を示し、心躍ったり憧れを抱くのは、生物としての最も根源的な欲求、”生き残る”という事に、本能が反応するからだろう。
いつでもどこでも自分の身を守り、行く手を切り拓いていける”生存力”
野外だろうが都市生活であろうが、冒険と挑戦の繰り返しである人生では、その力が最も頼りになるスキルだ。
それを無意識で知っているからこそ、強い感心を持つのではないだろうか。
強さ、逞しさが未来への不安を和らげ、世界を広げる為のチャレンジに踏み出す勇気を与えてくれる。
サバイバルを格好良い、面白い、やってみたいと感じる、真実の理由がそれだ。
では、サバイバルに必要なものとは何だろうか?
この問いにあなたが思い浮かべたのは、火を熾すテクニックだったり、獲物や野草を手に入れる知識ではないだろうか?
あるいは、大型のナイフであったり火打ち石など、普通のキャンプ道具とはちょっと違う、何か専門的で特殊なツールの数々をイメージしたかもしれない。
それも正しく、重要な要素の一つだ。
しかし、そうした技術や道具はサバイバルを行う上での、あくまで一要素でしか無いことを認識する必要がある。
最も大事なのは、生き残る為にすべき事は何か?そしてその優先順位をどのように判断するかということだ。
例えば、トレッキングの最中に道に迷い遭難したとする。
幸い、少しの食料は持っている。
だが、季節は真冬。
そのままそこにいれば、ほぼ確実に寒さで命を失うという状況ならば、人里へと脱出することになる。
そしてその為に、方角を見定め移動するという技術を駆使することになるだろう。
この場合、最も必要なのは星や太陽を見て方角を判断する能力、あるいはコンパスや地図があれば、それらを使いこなす技術だ。
そうした状況では、火を熾すというスキルは、脱出の行程の途中、休憩時に暖を取るために必要となり、優先順位は2番めとなる。
これが、自分やメンバーの中に怪我人がいて、移動が困難だということになれば、選択肢とその優先順位は変わる。
まずは応急手当を施し、現地に留まり、火を熾したりシェルターを作って、何とか寒さを凌ぎつつ助けを待つというチョイスだ。
もしくは、健康で地形や方角を見極める事のできるメンバーが救助を求めるため下山し、他の者はその場に残るという判断もあり得る。
持っている装備、メンバーの知識や技術、体力、心理状態、自然環境などを考えあわせる。
それを元に、生存に繋がる最善の方法を考えだし、選び取る判断力が、サバイバルの第一の力だ。
そして、”耐える”という精神的能力も、サバイバルにはとても重要な要素になる。
非常事態というものはたいてい、不快で苦しいこととワンセットのことが多い。
暑さ、寒さ、痛み、空腹、喉の渇き、疲労、眠気、不安、混乱、恐怖、、、
そうした、辛く、生きる為の努力と行動を求められるシチュエーションでは、平常時に何でもなく出来ることが簡単ではないのである。
3日もロクに眠れていない、、体はクタクタの上に空腹。最後に食べたのは昨日の朝のインスタントラーメンだけ、、
こんな状況では、例えば手元に食料となる魚を釣る為の仕掛けとエサが有ったとしても、普段、遊びで行っているようには釣りをすることが難しい。
竿となる木を切り、獲物が潜んでいそうなポイントを探して川沿いを歩き続ける。
それだけの事でも、疲れた体では苦労するだろうということは想像に難くないと思う。
やがて、やっと見つけた魚が潜んでいそうな渓流の淀みに糸を垂らす。
しかし疲労が睡魔を呼び、竿を握ったまま待ち続ける事自体がまず、忍耐力を問われる試練となる。
行動する為に体力を回復させるという目的の前では、倒れそうな体と心に鞭打って行動するという”耐える力”が求められる場面の例だ。
また逆に、状況の好転を期待して、何もせずただひたすらじっと、待ち続けるということが必要な場面も出てくるかもしれない。
夜間、最悪の悪天候。風雨が吹きすさび、移動は愚か火を炊くことさえも不可能。
できる事は岩陰にじっと身を潜め、雨具に叩きつけてくる大粒の雨のバタバタという音を聞きながら、翌日は太陽が顔を出してくれるのを祈りつつ、じっと目をつぶることだけ。
ブーツの指先は冷たい雨に冷えきってジンジンしているが、我慢することしか出来ない。
永遠に続くようにも感じられる時間と、ジワジワと体を痛めつけてくる冷たさ、寒さに耐えるココロと体の忍耐力、、
それもサバイバルするための重要な能力である。
こういった基本的な考え方と能力を備えた上でこそ、水や食料を確保する技術や、シェルターを作り、火を熾して体を温めるというテクニックが効力を発揮する。
繰り返すが、肝心なのはその場に必要な要件を判断し、適切な順序で実行できるということだ。
これは何も海や山でサバイバルする場合に限ったことではない。
大地震に代表される災害に遭遇した場合でも、例えば倒壊しそうな職場や家に留まる、または自力で安全な場所まで避難するといった判断が求められるのは全く同じだろう。
その判断の後でこそ、避難訓練で学ぶ救急法や避難グッズの使用法というものが初めて活きる。
勿論、何も知らないより100倍有利ではあるが、こうした基本原則を理解しないまま、防災用品を備えて安心しているだけでは、片手落ちもいいところ。
サバイバルに肝心なのは、ソフトとハードの両面で総合的に対処できる体制を整えることだ。
そして、最も大切なこと、それが”予防”である。
サバイバルというとどうしても目を奪われがちになる火や水、食料の確保といった個々のテクニックの習得だが、それ以前に、そのような事態を避けることがまず第1だ。
危機管理、わかりやすく言えばサバイバルの戦略には、”予測、準備、回避”という3原則がある。
起こる可能性のある状況を予測し、その準備を普段から行っておいて、来るべき、あっては欲しくないが起こってしまう事態に対応する。
”備えよ常に”とはボーイスカウトのモットーだが、その言葉が示す通り、まず最悪の状況を予測すること、そして能動的にその事態を予防することが出来れば、わざわざ辛い目に遭わなくて済むのだから、これに越したことはない。
まず、興味本位からサバイバルを学ぶのも良いだろう。
だが、小手先の技術や偏った知識だけを身に付けて、決まりきった使い方しか出来ない装備を買い溜めるだけでは、イザという時に痛い目をみることになる。
まず今、そこにある危機を、順序立てて見極める。
次に、自分の知恵と経験駆使して、対応方法を考える。
その後で、学んだ技と装備を使いこなし、危機を回避する。
この手順を踏んでこそ、生還への道が切り拓ける。
そのためには、普段からキャンプなどで自然の中で過ごしてみること、自分の身の施し方を学ぶことがとても重要だ。
いざサバイバル状況下に置かれた場合でも、過去に体験した状況が自信を与えてくれ、未知の事柄への不安を拭い去ってくれる。
トレーニングを積み重ねて得た経験、そして考える力こそが、ピンチを切り抜ける鍵となるからである。
■併せて読みたい関連記事■
サバイバルと似て非なる野外術”ブッシュクラフト”について