”知識と経験が増えれば、危険と装備は減らすことが出来る”
これは昔、私のアウトドアの師匠だったある人物から聞いた言葉だ。
何か新しく習い事や趣味をを始める時、何もわからない人間が、まず考えるのは何か。
その一つが、道具はどんな物を揃えるか?という悩みである。
これはアウトドアに関しても勿論、例外ではない。
むしろその筆頭だろう。
あなたもキャンプや山登りに興味を持った時、取り敢えず装備はどうしようか?というところから考え始めたのではないだろうか?
今、巷には沢山のアウトドアショップが存在している。
また、春先から夏のシーズンになれば、ホームセンターなどにもキャンプやBBQ用のアイテムが当たり前のように置かれている。
それらはアウトドア用品と一口に呼ばれている。
が、その呼び方ではあまりに大きく括られ過ぎだ。
テントひとつ取ってみても、ファミリーキャンプ用と冬山の個人用では、明らかに目的も性能も違う。
しかし、初心者には一見、同じように見えてしまい、どれを選べばよいか判断などできない。
特殊な専門用語、国内外を問わず溢れる無数のメーカー、素材や形状による機能の違いなど、、
予備知識を持たない者にとっては、アウトドア用品の世界はまるで不思議の国だ。
例えば、キャンプ慣れした人にとっては当たり前のシュラフという呼び名。
これが、これから家族でアウトドアを始めようという人にとっては??となる。
はっきり言って、まだまだマニアックな世界なのである。
かと思えば、テントやランタンと言えば山岳用品店でしか販売されていなかったのは過去の話。
今では、Amazonで1クリックするだけで、翌日には自宅に届いてしまう。
しかもそれらが、専門的な知識を持つ山男だけのスペシャルアイテムだった時代は過ぎ去った。
現代では、ネットで通販の解説やレビューを少し見て、大まかな機能や使い勝手は知ることが出来る。
だが、それ故の買い間違いというのも多くなっている。
それらは、
”取り敢えずそこそこ高ければ間違いないだろう、、”
”よく耳にするブランドだから大丈夫なんじゃない?”
”大は小を兼ねるというし、大丈夫なんじゃない?”
という単純な発想や盲信で買われていくことが多いのも事実だ。
特に、知識がない故に、的確な質問をすることすら叶わない初心者。
そうすると結局、店員へアドバイスをお願いすることも億劫になりがちだ。
その結果、正しい選択を行う事ができない。
特に女性で、こんな思いをされたことがある方は結構いるのではないかと思う。
こうした間違いを防ぐ方法、それは2つ。
1つは、知識のある人と一緒に店を訪れる事。これは最も楽で簡単だ。
2つ目は、量販店などではなく、本当の専門店に出向くことである。
専門店はきちんとしたプロ店員が、その豊富な知識と自身の経験を交えて、アドバイスをくれる。
そして、初心者だから何も分からないという、こちらのレベルを理解してくれた上で、製品選びを助けてくれる筈だ。
これが、何でもありの大型スポーツ店やホームセンターでは、そうしたサポートを期待すること自体が無理である。
もちろん、趣味である以上、こうした知識を勉強していくことも楽しみの一つではある。
特にモノに凝る習性の強い男子的には、一つずつ本やネットでそういった情報に詳しくなっていくのも楽しい。
ショップでアウトドア用品をあれこれ手に取り、
”カッコイイなぁ、これを使ったら、夢見ていたあんなことやこんなことが出来る、、”
と妄想を膨らますのも素敵な一時だと思う。
そうして少しづつ買い揃えた装備を持って野山に出かけ、扱いに苦労したり失敗したりしながら過ごす経験もまた、ホビーの一面ではある。
こうしていくうちに、やがてどんな方向性に向かうか、これにはおおまかに言って、2つのタイプに分けられる。
一つは大量の装備とそれらの高い機能をフル活用するタイプだ。
煌々と輝き、自宅の居室と変わらない明るさを確保してくれるランタン。
組み立て式の棚やキッチンセットは至れり尽くせりの豪華機能。
1泊や2泊で帰ってしまうのはもったいないような設備だったりする。
最近はやりのグランピングなどは、この究極を行っているキャンプスタイルだろう。
豪華なアイテムで快適さを確保し、暑さ寒さや暗さから身を守る。
そこまでする究極の目的は、肉体的にも心理的にも、自分を不安にさせる要素を徹底的に排除することだ。
安心してラクチンなアウトドアを楽しむ。
それがアウトドアに出かける唯一の目的であるなら、このスタイルに勝るものはない。
座り心地の良いチェアーに腰を落ち着けて、大型クーラーボックスの中に沢山詰まった冷たいビールを片手に、美しい風景を眺め、焚き火を囲む楽しみ。
アウトドアに憧れや興味を持つ人の多くがやってみたいことの象徴は、こんなことではないだろうか。
これに対して、もう一つのタイプは機能性、合理性を追求し、軽量・コンパクトさを追い求めていくタイプだ。
何度も野外に出て、キャンプデビューの頃にワケも分からず購入したギアを繰り返し使っているうちに、必要なものと不必要なものが判別できるようになってくる。
本当に使えるものと、見てくれだけで実際には役に立たないものの区別がついてくるようになる。
これは他のスポーツなどでも、上達していく過程で道具を選ぶのが上手になるのと同じだと思う。
その結果、
”これは使えない、あれもいらない、、”
”これとこれの機能は兼用できる、、”
”今回はこれは多分必要ないから残していこう、、”
といった判断が可能になり、自分なりのスタイルが確立されてくるのだ。
特に荷物を自分で背負う登山やトレッキングなど、多くの装備を持つことが不可能な場合、この傾向が顕著になる。
すると、どういう事が起きるか?どういうメリットがあるか??あなたは解るだろうか?
装備を絞ることで軽量、コンパクトになるのだから当然、動き易い。
急な山道を登り続けたり、あるいは急峻で足場の悪い岩場を歩かなければならない場面では、少しでも重量が軽い方が楽で安全なのは容易に想像がつくだろう。
また、必要な装備が少なければ購入に係る費用も少なくて済み、パッキングや片付けも手間が少ない。
そして、出かけた先の野山で、無くしたり壊したりといったトラブルに見舞われる機会も減る。
持ち物を兼用したり絞ったりすれば、使いにくかったり、イマイチ機能的に問題が出るんじゃないの?という人もいるだろう。
また、性能の高い装備はそれなりに高額だという意見もある。
だが、良い道具をきちんと手入れして長く使えば、費用対効果という意味で価値は高い。
使い慣れた道具には愛着も沸くし、手に馴染んでいるので使いにくいということもない。
そして、野外で使うための道具に求められる機能には、ある法則がある。
それは、”性能と汎用性は反比例する”ということだ。
特定の目的に的を絞って作られた道具は、その目的以外に使用するには使いにくいということである。
例を上げれば、斧はそのとおりに薪を割ったり、丸太を分断するのには適している。
が、魚を捌いたり野菜を刻んだりする作業には向いていない。
テントにしても、ファミリーキャンプでの快適さを重視して設計されたダブルウォールの、立って着替えも出来るような大きくて重いものを、自分の足でしか登ることの出来ない北アルプスへ持って行こうとは思わないはずだ。
経験と知識をある程度積んだ人間なら、自分がこれから野外で出会うであろうシーン、そこで必要となるアウトドア用品に求められる機能、性能といったものが想像できる。
そこで、アイテムが持っていなければならない能力の最大公約数を割り出して、装備選びを行うことが出来るのだ。
私の経験も含めよく耳にする例に、有名なスイスアーミーナイフがある。
様々な機能を持っているにも関わらず、ナイフ、はさみ、コルク抜きといった基本的な機能以外は殆ど使ったことがないという話だ。
これなど兼用装備の最たるもので、一つ一つの機能は単独のナイフやはさみに叶わないものの、山や川で短期間使うには、何とかやってのける事ができるレベルなのである。
実際のシーンでは、今ひとつ使いにくいなぁ、、とは思うかもしれないが、でもまあOK!となるのだ。
つまり、使いやすいけど重たくて嵩張る専門的な道具をいくつも持たなくても、取り敢えず使えればそれでいいというのがホントのトコロなのである。
こうして、持っていける荷物の限界量に合わせつつ、最低限の機能を確保して行くことを覚えると、同時に、現場で得られる素材、木や石といったものから必要なアウトドア用品を創りだす知恵と技術も磨かれていく。
無いもの、足らないものは現地で作る。
あるいは持参してきたアウトドア用品と組み合わせて何とかする。
そうすることで、必要十分な機能(まあまあ快適)の道具でアウトドアを過ごせて、尚且つ荷物は軽量・コンパクト。
そして機動性も高いというスタイルを確立することが出来る。
”必要な物は何一つ忘れるな。しかし不必要な物は何一つ持って行くな”
この言葉は、アウトドアグッズ選びの哲学をひと言で表現した、至極の言葉だろう。