アウトドア用品を買う前に、、

”知識と経験が増えれば、危険と装備は減らすことが出来る”
これは昔、私のアウトドアの師匠だったある人物から聞いた言葉だ。

何か新しく習い事や趣味をを始める時、何もわからない人間にとって、まずどれから手を付けようかと考えてまず思いつくことの一つが、道具はどんな物を揃えるか?という悩みである。
これはアウトドアに関しても勿論、例外ではなく、むしろその筆頭だろう。
あなたもキャンプや山登りに興味を持った時、取り敢えず装備はどうしようか、何を買おうかというところから考え始めたのではないだろうか?

今、巷には沢山のアウトドアショップが存在し、また、春先から夏のシーズンになれば、ホームセンターなどにもキャンプやBBQ用のアイテムが当たり前のように置かれている。
それらはアウトドア用品と一口に呼ばれているが、あまりに大きな枠で括られており、
初心者には一見、同じように見えるものでも、様々な製品があって、どれを選べばよいか理解できない。

特殊な専門用語、国内外を問わず溢れる無数のメーカー、素材や形状による機能の違いなど、、
予備知識を持たない者にとっては、アウトドア用品の世界はまるで不思議の国だ。
寝袋一つにしても、キャンプ慣れした人にとっては当たり前のシュラフという呼び名が、これから家族でアウトドアを始めようという人にとっては??となる。
はっきり言って、まだまだマニアックな世界なのである。

数十年前のように、テントやランタンと言えば山岳用品店でしか販売されておらず、山男のスペシャルアイテムだった時代は過ぎ去り、誰でも簡単に手に入れることができて、扱う事の容易な製品が多くなった。

先に書いたように、専門的な知識は無くとも、金さえ出せば簡単にモノは入手することができる時代だ。
あちらこちらで豊富に店頭に並べられているアウトドア用品は、取り敢えずそこそこ高ければ間違いないだろう、、という単純な発想や、よく耳にするブランドだから大丈夫なんじゃない?といった盲信で買われていく。

特に、知識がなくまたそれ故、的確な質問をすることすら叶わない初心者は、店員へアドバイスをお願いすることも億劫になり、結果、正しい選択を行う事ができない。
専門店に行けば、豊富な知識と自身の経験を交えて、アドバイスをくれる優れた人物がいる場合が多いのに、これはもったいない話だ。

もちろん、趣味である以上、本やネットでそういった情報を勉強して一つずつ詳しくなっていくことも楽しみの一つではある。
特にモノに凝る習性の強い男子的には、ショップでアウトドア用品をあれこれ手に取り、カッコイイなぁ、これを使ったら、夢見ていたあんなことやこんなことが出来る、、と妄想を膨らますのも素敵な一時だと思う。

そうして少しづつ買い揃えた装備を持って野山に出かけ、扱いに苦労したり失敗したりしながら過ごす経験もまた、ホビーなのである。

すると、やがてどんな方向性に向かうか、これにはおおまかに言って、2つのタイプに分けられる。

一つは大量の装備とそれらに備わる高い機能を活かして、ラグジュアリーなスタイルのキャンプを楽しむようになるタイプ。
煌々と輝き、自宅の居室と変わらない明るさを確保してくれるランタン。
またキッチンセットは至れり尽くせりで、1泊や2泊で帰ってしまうのはもったいないような設備だったりする。

豪華なアイテムを展開して快適さを確保し、暑さ寒さや暗さから身を守る為のアウトドア用品達。
そこまでする究極の目的は、肉体的にも心理的にも、自分を不安にさせる要素を徹底的に排除することだ。
安心してラクチンなアウトドアを楽しむ。それがアウトドアに出かける唯一の目的であるなら、このスタイルに勝るものはない。

座り心地の良いチェアーに腰を落ち着けて、大型クーラーボックスの中に沢山詰まった、冷たいビールを片手に、美しい風景を眺め、焚き火を囲む楽しみ。
アウトドアに憧れや興味を持つ人の多くがやってみたいことの象徴は、こんなことではないだろうか。

これに対して、もう一つのタイプは機能性、合理性を追求し、軽量・コンパクトさを追い求めていくタイプだ。
何度も野外に出て、キャンプデビューの頃にワケも分からず購入したギアを繰り返し使っているうちに、必要なものと不必要なもの、本当に使えるものと、見てくれだけで実際には役に立たないものの区別がついてくるようになる。
これは他のスポーツなどでも、上達していく過程で道具を選ぶのが上手になるのと同じだと思う。

その結果、これは要らない、あれもいらない、、これとこれの機能は兼用できる、、今回の野外旅にはこれは多分必要ないから残していこう、、といった判断が可能になり、自分なりのスタイルが確立されてくるのだ。
特に荷物を自分で背負わなければいけない登山やトレッキングなど、多くの装備を持つことが不可能な場合、この傾向が顕著になる。
すると、どういう事が起きるか?どういうメリットがあるか??あなたは解るだろうか?

装備を絞ることで軽量、コンパクトになるのだから当然、動き易い。
急な山道を登り続けたり、あるいは急峻で足場の悪い岩場を歩かなければならない場面では、少しでも重量が軽い方が楽で安全なのは容易に想像がつくだろう。

また、必要な装備の種類が少なければ購入に係る費用も少なくて済み、パッキングや片付けも手間が少ない。
そして、出かけた先の野山で、無くしたり壊したりといったトラブルに見舞われる機会も減る。

性能の高い装備はそれなりに高額だし、かといって持ち物を兼用したり絞ったりすれば、使いにくかったり、イマイチ機能的に問題が出るんじゃないの?という意見もあるだろう。
だが、良い道具をきちんと手入れして長く使えば、費用対効果という意味で価値は高い。
使い慣れた道具には愛着も沸くし、手に馴染んでいるので使いにくいということもない。

そして、野外で使うための道具に求められる機能には、ある法則がある。
それは、”性能と汎用性は反比例する”ということだ。

特定の目的に的を絞って作られた道具は、その目的以外に使用するには使いにくいということである。
例を上げれば、斧はそのとおりに薪を割ったり、丸太を分断するのには適しているが、魚を捌いたり野菜を刻んだりする作業には向いていない。
テントにしても、ファミリーキャンプでの快適さを重視して設計されたダブルウォールの、立って着替えも出来るような大きくて重いものを、自分の足でしか登ることの出来ない北アルプスへ持って行こうとは思わないはずだ。

経験と知識をある程度積んだ人間なら、自分がこれから野外で出会うであろうシーン、そこで必要となるアウトドア用品に求められる機能、性能といったものが想像できる。
そこで、アイテムが持っていなければならない能力の最大公約数を割り出して、装備選びを行うことが出来るのだ。

私の経験も含めよく耳にする例に、有名なスイスアーミーナイフがある。
十得ナイフとして様々な機能が備わっているにも関わらず、ナイフ、はさみ、コルク抜きといった基本的な機能以外は殆ど使ったことがないという話だ。
これなど兼用装備の最たるもので、一つ一つの機能は単独のナイフやはさみに叶わないものの、山や川で短期間使うには、何とかやってのける事ができるレベルなのである。
実際のシーンでは、今ひとつ使いにくいなぁ、、とは思うかもしれないが、でもまあOK!となるのだ。
つまり、使いやすいけど重たくて嵩張る専門的な道具をいくつも持たなくても、取り敢えず使えればそれでいいというのがホントのトコロなのである。

こうして、持っていける荷物の限界量に合わせながら、最低限の機能を確保して行くことを覚えると、同時に、現場で得られる素材、木や石といったものから必要なアウトドア用品を創りだす知恵と技術も磨かれていく。
無いもの、足らないものは現地で作る。あるいは持参してきたアウトドア用品と組み合わせて何とかする。
そうすることで、必要十分な機能(まあまあ快適)な道具によって、アウトドアを過ごせて、尚且つ荷物は軽量・コンパクト。機動性も高いというスタイルを確立することが出来る。

”必要な物は何一つ忘れるな。しかし不必要な物は何一つ持って行くな”この言葉は、アウトドアグッズ選びの哲学をひと言で表現した、至極の言葉だろう。

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