野外での怪我は都会と大違い

A mountain rescue team prepares for a helicopter rescue.

 

ウィルダネス(wilderness)という単語がある。
荒野、原野といった意味の単語で、ワイルド(Wild)から来ている言葉だ。
ネイチャーやアウトドアといった言葉よりもさらに、人の手の届かない、文明から隔絶した場所という意味合いが強い。

何の話かといえば、このウィルダネスで必要な知識と技術について知ってもらいたいのだ。

 

一ヶ月ほど前、とある研修に参加してきた。
その内容は、特にウィルダネス環境下に特化した救急救命技術のトレーニングである。

WMA(Wilderness Medical Associates)という、アメリカに本部を置く団体が主催しているもので、日本にもその支部がある。
主にプロのアウトドアガイドや自然の中で仕事をする人々に対して門戸を開いている。
(WMAJはこちらを参照の事)

 

ここで、冒頭に説明したウィルダネスの言葉の意味が関わってくる。
このWMAが教える救急救命法は、日赤や消防署で教える救急法と明確に異なる点がある。
それは”傷病者がすぐに医療機関で治療を受けることが出来ない環境下”での救急法だということだ。

例えば、こんな状況をイメージして欲しい。
登山道を4時間登った、急な斜面の岩場で仲間が転倒し、頭を打って意識不明。
時間は夕暮れで天候も悪く、救急車はもちろん、ヘリを呼ぶことも不可能。
そして携帯電話のバッテリーも残り僅か。。

こうした場合、はっきり言って、通常の救急救命法では役に立たない。
何故なら、日赤や消防の救急法は、直ぐに救急車が駆けつけられることを前提にしており、アクシデントが発生した直後の、ほんの短い時間を埋めることにフォーカスしているからだ。

だが、上記のようなウィルダネス状況下では、救急隊へ引き継ぐまでに数時間、場合によっては数日の間、自分達だけで何とかしなくてはならない。

まず生命に関わる重大問題(大出血、呼吸や脈の停止など)を処置するところまでは、街中でも野外でも同じ方法を行う。
だが、WMAではその後、患者の容態を判断し、悪化させない為の処置を施す。
その為の手法を学ぶのが、この野外救命法なのである。

命の火を消さずに、助けが来るまで引き伸ばし続けるには、心臓マッサージや人工呼吸のやり方を知っているだけでは不十分なのだ。

 

ここまで読んで、そんな過酷なアウトドアはやらないから、私には関係ないと思った貴方。
それは甘い。

先ほど、ワイルダネスの言葉の定義を、” 傷病者がすぐに医療機関で治療を受けることが出来ない環境下”と説明した。
そのシチュエーションは普通のアウトドアでも、場合によっては都会でさえも起こりうる。

昔、私が住み込んでいた群馬の山奥のスキー温泉場は、20km以上ある一本道だけが下の街との連絡路で、時折、台風などの土砂崩れでその道が塞がって、何日も陸の孤島になることがあった。

また、阪神大震災の際には、神戸の長田区という場所が大火に見まわれたが、その火災発生場所の目の前に消防署があったにも関わらず、救急車や消防車は出動できなかった。
駆けつけるべき消防隊員の方々もまた、被災していたからである。

こうした事例を想像する時、貴方の思考はどの方向に向かうだろうか?
運が悪かった、諦めるよ、、と考えるという人はまだ実感が足りないだけだろう。

目の前で最愛の人の呼吸が、心臓の鼓動が弱くなり、止まっていく瞬間。
その時に、本当にそう思えるだろうか?ともう一度考えて欲しい。

 

自己完結性という言葉があるが、これは簡単に言うと、自分のことは自分で賄えるという事だ。
救急車を呼べばいい、誰か他の人が助けてくれるだろうから、私は何も準備や知識を備える必要はない、、といった考え方は、少なくとも自然に入り込むアウトドアマンが持つべき思想ではない。

完璧でなくとも出来る限りの準備をして、自身に関わる面倒や物事は自らが解決する。
自分こそが一番間違いのない、確かなツールだと思えるようになれれば、それは自信と余裕に繋がる。

森の奥で一人、余裕の笑みを浮かべつつ、焚き火を囲んでいる。
そんな男でいたいと思わないか?

 

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